福岡高等裁判所 昭和48年(ネ)24号 判決 1974年7月22日
控訴人
龍田重夫
右訴訟代理人
久保良市
右訴訟復代理人
田島昭彦
被控訴人
山崎こと
日高直敏
右訴訟代理人
吉永普二雄
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人の主位的請求を棄却する。
控訴人の予備的請求に基づき、被控訴人は控訴人に対し金一一三万円および内金六三万円に対する昭和四五年五月一日以降内金五〇万円に対する同年五月三一日以降各完済まで、年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一控訴人の商法第二六六条の三に基づく、被控訴人に対する損害賠償請求についての当裁判所の判断は、原判決がその理由において説示するとおりであるから原判決の理由一、二、三(原判決三枚目裏八行目から同五枚目裏六行目まで)をこゝに引用する。
控訴人の当審における立証によつても、右引用の原判決の認定判断を覆すに足りない、
二そこで、訴外城山建設株式会社の法人格が否認される場合である旨の控訴人の主張について判断する。
前記引用の原判決認定の事実に、<証拠略>を総合すると、被控訴人は以前にも土木建設業を目的とする一番建設株式会社を設立したが、業績が振わずこれが事実上消滅したのち、同じく土木建築請負工事等を業とする城山建設株式会社(以下城山建設という)を昭和三八年六月二一日設立し、その代表取締役に就任したこと、城山建設の資本金はわずか五〇万円(授権資本総額は二〇〇万円)で役員としては被控訴人のほか、取締役として友人の仰木利彦、同村山安彦が、監査役として、横手孝が、それぞれ就任していたものの、いずれも当初から非常勤で営業に関与したことなく、被控訴人が直接或は総務部長長倉良平をして業務を専権執行し、城山建設が不渡手形を出して倒産する三月前後頃には取締役仰木利彦、同村山安彦も辞任し、名実ともに被控訴人の個人会社となつたこと、
しかして、城山建設はその名義で銀行などから融資を受けることができないので、代表者である被控訴人がその個人所有名義の資産(そのうちには城山建設名義で発注した建物を直接被控訴人個人名義で保存登記した分も含まれる)を担保にして信用金庫その他から融資を受け、その資金を必要に応じ随時城山建設に対する被控訴人の貸金の形式をとつてその運営資金に充てゝいたが、被控訴人は自己名義で学生アパート用共同住宅三棟の建築確認申請をなす一方、城山建設名義で昭和四四年一〇月三日と同四五年一月初め頃の二回にわたり、訴外藤崎和七郎に工事代金総額九〇二万四、〇〇〇円で請負わせ、その建物三棟につき昭和四五年一月二〇日と同年二月二六日に被控訴人個人名義で所有権保存登記を経由したこと、
そして、更にこの建物をも担保にして、被控訴人は他から融資を受け、城山建設の運営資金に流用していたが、直接被控訴人名義で右保存登記をなすについては取締役会の承認を受けたことがなかつたばかりでなく、控訴人の本件手形三通は全部、城山建設が訴外藤崎和七郎に対する右請負工事代金を現金で支払うことができないため、控訴人が被控訴人及び藤崎和七郎に懇請されてこれを割引き、現金を、藤崎和七郎に交付し右各手形の交付を受けたものであること、
しかるに、城山建設は昭和四五年三、四月頃負債約三、四〇〇万円を残し、城山建設所有名義としてはみるべき資産もないまゝ倒産し、わずかの建設機材と会社の帳簿書類は一部債権者から引上げられてその所在もつまびらかでなく、控訴人が城山建設に対して取得した債務名義による強制執行も評価額わずか七、八万の什器備品に執行が競合する有様で、全く債権回収の実を挙げるに至らなかつたのに、被控訴人は城山建設の倒産後訴外飛松某と組んで城山建設の隣に同種営業目的の有限会社西都建設を設立しているほか、前記共同住宅三棟及び別途、城山建設名義で建築工事を他に請負わせながら直接自己名義で保存登記を経由したとみられる建物二棟を所有していること、
以上の事実を認めることができ、被控訴人の城山建設に対する貸金の代物弁済として前記共同住宅三棟を被控訴人名義で直接所有権保存登記をなした旨の<排斥証拠略>は措信できない。
右事実によると、城山建設は控訴人所持の手形三通が振出された当時においては、実質的に被控訴人個人と同様の会社で、帳簿上の形式的な記帳はつまびらかになし得ない状況にあるものの、事実上、被控訴人の資産と城山建設の資産が融通むげの状態で混同しており、かつまた、被控訴人は城山建設の名義を利用してその取得資産を被控訴人個人の所有名義としながら、債務の帰属のみは城山建設とするなど、債権者を詐害する方法で会社法人格を乱用しているものと断ぜざるを得ない。
そうだとすると、控訴人は、被控訴人が城山建設から代物弁済として取得したという前記共同住宅三棟を詐害行為ないしは通謀仮装のものとして取得し、または無効を主張しうるにとどまらず、城山建設の法人格そのものを否認し、被控訴人の全財産から前記手形金債権の満足をうることができるものというべきである。
三よつて、控訴人の商法二六六条の三に基づく損害賠償の主位的請求は失当であるが、控訴人が法人格否認の法理に基づいて手形額面合計額一一三万円及び内金六三万円と内金五〇万円とにつき、それぞれ手形支払期日の翌日以降年六分の割合による損害金の支払を求める控訴人の予備的請求は正当として認容すべきであるから、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用し主文のとおり判決する。
(原田一隆 鍬守正一 松島茂敏)